ピリ・レイスの地図(Piri Reis Map)

               

1929年10月9日。この日、トルコのトプカプ宮殿で偶然発見された16世紀の古地図「ピリ・レイスの地図」は大航海時代のクリストファー・コロンブスの影響が見られる地図として反響を呼びましたが、のちに別の角度から議論を呼ぶこととなります。

それは南極大陸の発見から3世紀以上前の地図にも関わらず、南極とおぼしき大陸が描かれているからです。

「ピリ・レイスの地図」はどのような地図なのか、そして本当に南極を描いているのか、精査していきましょう。

 

地図の概要

ピリ・レイスの地図

 

名称(日本語) ピリ・レイスの地図
名称(英語) Piri Reis Map
製作時期 1513年
所蔵場所 トプカプ宮殿博物館(トルコ・イスタンブール)
作者 ピリ・レイス
材質 羊皮紙
大きさ 縦90cm×横65cm

 

「ピリ・レイスの地図」はその名の通り、ピリ・レイスが作った航海地図です。
もともとは縦140cm×横165cmほどの世界地図であったとされていますが、大西洋を中心に描いた一部分しか残っていません。

完成から4年後の1517年にオスマン帝国皇帝のセリム1世に献上されています。

 

地図の作者

この地図の作者はオスマン帝国の海軍軍人ピリ・レイス(1465?〜1554年、ピーリー・レイースとも)です。

彼は軍人として地中海・アラビア海・ペルシア湾など様々な海域において戦争に参加するかたわら、地図や情報を集めてそれを元に世界地図や航海案内所の製作も行っていました。

世界地図は2つ作っており、今回紹介する「ピリ・レイスの地図」ともう一つは1528年に作られたものです。こちらも一部しか残っていません。

ピリ・レイスの地図(1528年)断片

ピリ・レイスの地図(1528年)の断片

 

そして航海案内所の方は『海洋の書(キターブ・バフリエ)』というもので、1521年に作られました。同書は地中海や大西洋の様々な海域の地図を200以上収めているほか、航海に関するあらゆる情報が記されています。
1526年にも再度製作され、この版は時のオスマン帝国皇帝スレイマン1世に献上されています。

『キターブ・バフリエ』 ヨーロッパ

『海洋の書(キターブ・バフリエ)』内のヨーロッパ地図

 

地図の情報源

この地図はピリ・レイスが海軍軍人として当時手に入れることができた様々な地図を参考にして作られています。その数は合わせて20近くにも登ります。

地図の他にもイスラーム圏の地理書や古代からの伝承など様々な情報を盛り込んでいました。
その内容を詳しく見ていきましょう。

ポルトラノ海図

航海用の海図であるポルトラノ海図は当時、海を渡る人々にとって必要不可欠なものでした。
海軍軍人として度々海に出ていたピリ・レイスは種々多様なポルトラノ海図を手に入れることが可能であり、それらが彼の地図製作に影響を与えたというのは想像に難くありません。

ポルトラノ海図

ポルトラノ海図の例(16世紀)

 

海岸線の描写はもちろんですが、ピリ・レイスの地図がポルトラノ海図の特徴である航程線(放射状に引かれた線)や羅針図を有していることからもその影響は明らかです。

羅針図

羅針図の例

 

プトレマイオスの『地理学』

古代ローマの地理学者クラウディオス・プトレマイオスの著書『地理学』内の地図もピリ・レイスの地図の情報源として挙げられます。

プトレマイオス図

『地理学』に基づくプトレマイオス図

 

同書は15世紀の頭にラテン語訳が完成して以降、ヨーロッパ各地で度々出版され、当時の多くの地図に影響を与えていました。彼もまた同時代の他の地図製作者と同じようにこの地図に基づく情報を盛り込んでいました。

 

最新のポルトガル製地図

地図内にピリ・レイス自身がポルトガルの地図製作者による4つの地図を参考にしたと記しています。

そのうちの一つは1502年の「カンティーノの世界地図」であることがわかっています。
この地図はブラジル沿岸を描いた現存する最古のものです。

カンティーノの世界地図

 

また、ペドロ・レイネルや息子のジョルジ・レイネルによる海図も参考にしているとみられます。
具体的には彼らが製作に携わった『ミラー・アトラス』と呼ばれる地図帳内の地図と共通点があります。

ミラー・アトラスの世界地図

『ミラー・アトラス』内の世界地図(1519年)

地図帳の製作年は1519年で「ピリ・レイスの地図」の完成よりも後ですが、おそらくそれ以前に作られた同種の地図を参照していたと考えられます。

 

これらの地図は主に西アフリカから大陸南端の喜望峰にかけてやブラジル、インド周辺など、ポルトガル人が航海してきた地域の描写に影響を与えています。

 

クリストファー・コロンブスの新大陸地図

新大陸アメリカを「発見」した大航海時代の航海者クリストファー・コロンブスによる新大陸を描いた地図も情報源の一つとして数えられます。

コロンブスは航海により発見した土地を記した地図を作っており、現存はしていないもののそのコピーをピリ・レイスが参照していたと考えられます。

コロンブスの地図は当然ながら彼が発見したカリブ海地域の描写に影響を与えています。

 

イスラーム圏の地理書

イスラーム圏で作られた地図ですので、当然イスラームの地理学の情報も参照されていました。

タブラ・ロジェリアナ」で有名な12世紀のアル=イドリーシーや9世紀に活躍したアル=フワーリズミー、15世紀のイブン・マージドなどがその一例です。

タブラ・ロジェリアナ

イドリーシーの「タブラ・ロジェリアナ」(1154年)

 

古代からの伝承

ピリ・レイスは上に挙げたような実学的な情報の他にも、古代から伝わる非科学的な伝承も盛り込んでいました。

その伝承というのは空想上の生き物や人で、1世紀にプリニウスが『博物誌』で記したものが有名です。その後も中世ヨーロッパのマッパ・ムンディに描かれたり、ルネサンス期においても知識人たちに親しまれていました。

怪物

南米に見られる怪物たち

 

ピリ・レイスが参照した直接的な情報源としてはアル=カズヴィーニー(1203〜1283年)の『創造の驚異』などが考えられます。

『創造の驚異』

『創造の驚異』内の怪物たち

 

 

オーパーツ説

冒頭でも触れたように、この地図は南極と見られる大陸を描いていることからオーパーツ(作られた時代にそぐわない人工物)であるという主張もあります。

ピリ・レイスの地図

赤丸の部分が南極大陸ではないかと言われている。

南極の発見はこの地図の完成から300年以上も後の1820年のことですが、ピリ・レイスの地図に描かれているのは本当に南極大陸なのでしょうか?

 

結論から言うと、以下の3つの理由から南極大陸ではないと考えられます。

  1. 南極にしては北に寄りすぎている

    ピリ・レイスの地図と世界地図を重ねた下の画像を見ていただければわかりますが、南極であるならばもっと南に描かれているはずです。

    ピリ・レイスの地図と世界地図

  2. 南アメリカと陸続きになっている

    南極と見られる大陸は東側に大きく曲がった南アメリカ大陸と陸続きになっており、南アメリカと南極の間にあるドレーク海峡が描かれていません。

  3. ポルトガルによって発見された暑い地域との記載がある

    地図上の該当部分に上記の記述があり、氷で覆われた南極とは考えにくいです。

 

こうした理由からこの大陸は南極大陸ではなく、単に南アメリカ大陸が大きく東側に歪んで描かれているだけか、あるいは『ミラー・アトラス』内の世界地図がそうであるように「未知の南方大陸」(テラ・アウストラリス・インコグニタ)を描いただけと考えられます。

ミラー・アトラスの世界地図

『ミラー・アトラス』の世界地図(1519年)。左端の南アメリカ大陸の南端が大きく東に逸れ、「未知の南方大陸」を描いているのが確認出来る。

 

「未知の南方大陸」というのは世界地図の南方に描かれていた仮説上の大陸で、古代のプトレマイオスの時代からありました。

 

 

まとめ

「ピリ・レイスの地図」のポイントをまとめると以下のようになります。

 

POINT

  • 現存しているのは世界地図の一部分である
  • ポルトラノ海図やプトレマイオスの『地理学』、最新のポルトガル製の地図やコロンブスによる地図など、当時入手可能だったあらゆる情報を駆使して作られている
  • 発見前の南極大陸を描いたオーパーツとの説もあるが否定されている

 

一部分しか残っていないのは残念なことですが、オーパーツとしてちょっとしたワクワク感を提供してくれたこと、そしてコロンブスによる新発見を反映させた初期の例であることを勘定すると、残っているのが大西洋部分であることは不幸中の幸いと言えるかもしれませんね。

 

 

参考文献


ルーニー, アン (2016) 『地図の物語 人類は地図で何を伝えようとしてきたのか』井田仁康日本語版監修, 高作白子訳, 日経ナショナルジオグラフィック社.

Bridges, Robert S. “Off the Edge of the Map: The Search for Portuguese Influence on the Piri Reis Map of 1513.” Student Publications, 191, 2012.

Kahle, Paul. “A Lost Map of Columbus.” Geographical Review, Oct., 1933, Vol. 23, No. 4 (Oct., 1933), pp. 621-638.

McIntosh, G. “A Tale of Two Admirals: Columbus and the Piri Reis Map of 1513.” Mercator’s World 5, No. 3, 2000.

McIntosh, G. “The Piri Reis Map of 1513: Art and Literature in the Service of Science.” Seapower, Technology and Trade: Studies in Turkish Maritime History, edited by Dejanirah Couto, Feza Gunergun, and Maria Pia Pedani. Piri Reis University Publication, 2014.

McIntosh, G. & Thrower, N. The Piri Reis Map of 1513. University of Georgia Press, 2000.

ガイウス・プリニウス・セクンドゥス – Wikipedia

大航海時代 – Wikipedia

ピーリー・レイース – Wikipedia

ピーリー・レイースの地図 – Wikipedia

ʿAjā’ib al-makhlūqāt wa gharā’ib al-mawjūdāt – Wikipedia

The Piri Reis Map

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