ベアトゥス図(Beatus map)

               

中世ヨーロッパで作られていた世界地図、マッパ・ムンディ。

その形式によっていくつかの種類に分けられますが、中でも当時知られていた3大陸(ヨーロッパ・アフリカ・アジア)の他に4つめの大陸を描いたものを「四分マップ」と言います。

今回はそんな四分マップの代表とも言える「ベアトゥス図」を紹介します。

 

地図の概要

ベアトゥス図

名称(日本語)ベアトゥス図
名称(英語)Beatus map
製作時期8世紀
製作場所スペイン
所蔵場所エル・ブルゴ・デ・オスマ大聖堂(スペイン・エル・ブルゴ・デ・オスマ)など
作者ベアトゥス
材質写本
大きさ縦37cm×横57cm

ベアトゥス図は中世前期のヨーロッパで描かれた地図(マッパ・ムンディ)です。

スペインの神学者であるリエバーナのベアトゥスが記した『ヨハネ黙示録注釈書』の写本内に見られます。

 

リエバーナのベアトゥス

リエバーナのベアトゥス(730年頃〜800年頃)は、アストゥリアス地方のリエバーナで活動していた修道士であり神学者です。

ベアトゥスは『ヨハネ黙示録注釈書』の著者として有名です。
『ヨハネ黙示録注釈書』は776年に書かれたのち、784年、786年とたびたび改訂されました。

 

 

『ヨハネ黙示録注釈書』

上述の通り、ベアトゥス図は『ヨハネ黙示録注釈書』という写本内に収められています。

この注釈書は、部分的なものを含む26の写本が現存しています。
そのうち10〜13世紀の14の写本にベアトゥス図が見られます。

ベアトゥスによる原本は失われましたが、原本の中にも地図があったとされます。
スペインのエル・ブルゴ・デ・オスマ大聖堂所蔵のベアトゥス図が最も原図に近いと考えられています。

ベアトゥス図

エル・ブルゴ・デ・オスマ大聖堂所蔵のベアトゥス図(1086年頃)

 

同書はモサラベ典礼という、西ゴート風の典礼の中で重要な位置を占めていました。

 

 

地図の特徴

ベアトゥス図は「マッパ・ムンディ」の一種で、四分マップと呼ばれるものに分類されます。
マッパ・ムンディとは、中世ヨーロッパで作られたキリスト教の世界観を反映させた世界地図のことです。

【参考記事】

マッパ・ムンディとは? 〜その分類や特徴〜
マッパ・ムンディというのは一言で表すと中世ヨーロッパで作られた世界地図のことなのですが、その形式によって様々な種類に分類できます。そこで今回はマッパ・ムンディの4つの分類の特徴の解説や、各分類に属する地図の紹介をしたいと思います!

 

四分マップの特徴は、その名の通り世界を4つに分割していることです。
当時ヨーロッパ人に知られていたヨーロッパ・アフリカ・アジアの他に対蹠地たいせきちが描かれています。

こうした対蹠地の考え方はイシドールスの影響を受けています。
イシドールス(560年頃〜636年)は中世初期の神学者で、『語源』という著作で有名です。

イシドールスの『語源』の写本内に見られる地図の中には、一般的なT-O図の他に対蹠地が描かれたものもあります。

イシドールスの地図

対蹠地が書かれた、イシドールスの写本内のマッパ・ムンディ

 

イシドールスの他には、オロシウスの影響も受けています。

 

地図の描写としては、モサラベ様式の特徴を有します。
モサラベ様式とはスペインにおける中世キリスト教美術の一様式で、イスラム統治下のスペインでイスラム文化の影響を受けながら独自の文化を形成したキリスト教徒(モサラベ)の美術です。

色づかいやアラベスク、海に書かれた魚の装飾などにその特徴が見られます。

 

 

製作意図

この地図が注釈書に含まれているのは、使徒により伝道された世界を示すためです。

ヨーロッパ・アフリカ・アジアの他に第四の大陸も含まれていますが、そこにはたとえ第四の大陸であっても使徒は地球上をくまなく伝道すべきであるという意図が込められているとされます。

 

 

まとめ

この記事ではベアトゥス図について解説しました。
簡単にポイントをまとめます。

 

POINT

  • リエバーナのベアトゥスによる『ヨハネ黙示録注釈書』内の地図である
  • マッパ・ムンディの中でも四分マップと呼ばれる形式である
  • イシドールスやオロシウスを情報源に、モサラベ様式で描かれている
  • 使徒によるキリスト教の伝道を示す意図があった

この記事で少しでもベアトゥス図への理解を深めることが出来たなら幸いです。

 

 

参考文献


ルーニー, アン (2016) 『地図の物語 人類は地図で何を伝えようとしてきたのか』井田仁康日本語版監修, 高作白子訳, 日経ナショナルジオグラフィック社.

Williams, John. (1997) ‘Isidore, Orosius and the Beatus Map.’ in Imago Mundi, 49:1, pp. 7-32.

Woodward, David. “Medieval Mappaemundi”  The History of Cartography, Volume 1 Cartography in Prehistoric, Ancient, and Medieval Europe and the Mediterranean, edited by J. B. Harley and David Woodward, 1987.

イシドールス – Wikipedia

ベアトゥス本(ベアトゥスぼん)とは? 意味や使い方 – コトバンク

モサラベ様式(モサラベようしき)とは? 意味や使い方 – コトバンク

Beatus map – Wikipedia

Beatus of Liébana – Wikipedia

Commentary on the Apocalypse – Wikipedia

e-codices – Virtual Manuscript Library of Switzerland

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました