華夷図

               

日本と中国は地位的にも近く、その関わりも深かったことから中国の古地図には早くから日本の姿が見られます。

今回紹介する「華夷図かいず」は、そんな日本が登場する中国の地図の中でも最古のものとなっています。

華夷図がどのような地図で、どのような意図で製作されたのかを見ていきましょう。

 

地図の概要

華夷図

名称(日本語)華夷図かいず
名称(中国語)華夷圖
名称(英語)Huayi tu
製作時期1136年
所蔵場所西安碑林せいあんひりん博物館(中国・陝西省せんせいしょう西安市せいあんし
作者不明
材質石碑
大きさ縦79cm×横78cm

「華夷図」は南宋時代の中国で作られた地図です。成立は1136年10月頃で、石碑上に掘られています。

 

中華と蛮夷

「華夷」という言葉は、中国と外国を意味します。
華は中華で、夷は野蛮国を表す夷狄いてきという概念を指します。

つまり華夷図というのは中国から見た世界地図なのです。

しかし中華と夷狄が対等に扱われていたわけではなく、中国が世界の中心であるという中華思想(華夷思想)に基づいて、夷狄は周縁に添えられているだけの形となっています。

 

華夷図と禹跡図

この華夷図は石碑に刻まれたものですが、実は華夷図の裏側にはもう1つ地図が刻まれています。

それが「禹跡図うせきず」と呼ばれるものです。

禹跡図

この禹跡図は1136年の4月に石刻されたものであり、華夷図よりも半年ほど早い成立となっています。
華夷図が世界図である一方で、禹跡図は中国全土を描いたものです。

 

地図の原図

華夷図はある地図を原図としています。
それが唐代の賈耽かたんによる「海内華夷図かいだいかいず」(801年)という地図です。

海内華夷図は残念ながら現存はしていませんが、華夷図はこの地図を10分の1の大きさに縮小して、地名や地図上の格子などを省略したものであると考えられています。

 

 

地図の内容

華夷図では金(1115年〜1234年)や南宋(1127年〜1279年)時代の中国全域とその周辺に朝鮮、インドが描かれています。

山・川・湖が描かれているほか、中国国内の地名が500箇所以上も記載されています。

 

周辺部には帝国や夷狄に関する情報が文字情報として書かれており、その中には日本も登場します。

そしてこの地図は日本が登場する地図の中で、現存する中国最古のものであると考えられます。
地名のみではありますが地図の右端、朝鮮半島のすぐ下に「日本」と刻まれているのが確認できます。

華夷図 日本

「倭国」「毛人もうじん」「蝦夷」「流求りゅうきゅう」「扶桑ふそう」などの文字も見られますが、これらも日本に関連する地名や民族名です。

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製作意図

華夷図には、裏面の禹跡図と合わせて、中国統一の理想を描くという意図があったと考えられます。

この地図が成立した当時の中国は、南部を南宋が、北部を女真族の金王朝が支配している状態でした。

南宋と金

1142年の中国

File:南宋疆域图(繁).png – Wikimedia Commonsより

クリエイティブ・コモンズ

このような状態の中で宋の支配者たちは北の領土を取り戻して中国を再び統一することを夢見ていたようで、この地図にもそうした想いが込められていると考えられます。

特に国内のみならず周辺の異民族まで描いたこちらの華夷図では、こうした激動の時代において対外的に必要であった中央の権力を示していたと推察できます。

そしてこの石碑は地図上の記述から学校に設置されていたことがわかっており、こうした統一の理想を生徒に託す役割があったのでしょう。

 

 

まとめ

今回は中国の「華夷図」という地図を簡単に紹介させていただきました。

 

POINT

  • 唐代の「海内華夷図」という地図を原図とする中華思想に基づいた世界図である
  • 「禹跡図」という中国地図の石碑の裏側に石刻されている
  • 日本が登場する最古の中国製地図である
  • 中国統一の理想を描くという意図があったと考えられる

本記事を通して少しでも華夷図並びに中国の地図史への理解を深めていただけたなら幸いです。

 

 

参考文献


海野一隆 (1997) 「漢民族の華夷思想と地図(1997年度春期東洋学講座講演要旨)」『東洋学報』79, 2, pp. 205-207.

海野一隆 (2004) 『地図の文化史 世界と日本』八坂書房.

織田武雄 (2018) 『地図の歴史 世界篇・日本篇』講談社.

ブロトン, ジェリー (2015) 『世界地図が語る12の歴史物語』西澤正明訳, バジリコ株式会社.

金 (王朝) – Wikipedia

四夷 – Wikipedia

宋 (王朝) – Wikipedia

中華思想 – Wikipedia

Huayi tu – Wikipedia

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